5-1 和風照明
【和風照明に受け継がれる「陰翳礼賛」の心】
昭和の初期に谷崎潤一郎が「陰翳礼賛(いんえいらいさん)」というエッセイを発表しました。同名の単行本の中のわずか50頁程の文章ですが、私達和風照明を愛する者達にとってバイブルとなる内容で、現在の照明にも忘れてはならない重要なあかりの原点が書かれています。
現在は中公文庫から出版されている
昭和の初期というと、白熱電球が初めて日本にお目見えしたのが明治40年なのですが、電線や電信柱等の設備が必要なことから各家庭に行き渡るのに時間が掛かり、丁度昭和の初期頃にほとんどの家庭が白熱電球になった頃だと言うことが出来ます。恐らくそれまでのろうそくや油の照明から比べてとてつもなく明るい光源であった訳です。
そのことを谷崎潤一郎は「ろうそくや油の時代は良かった!白熱電球で煌々と明るくなったために全てが均一に見え美しさに欠けるようになった」と書いているのです。さらに明るさだけでなく物の見え方に言及しています。「羊羹、漆器、白粉、金糸の着物、金屏風などは暗いろうそくの下ではその質感や気品が良く感じられるが、白熱電球の下では全てが見えてしまい気品が無くなる」という表現をしています。お白粉やお歯黒なども暗い所で見るとおちょぼ口に見えるが明るいところで見るとバカ殿(笑)に見える、と言いたかったのでしょう。このことは現代で言う「白熱電球の時代は良かった!蛍光灯やLEDは明る過ぎて全てが見えてしまい質感や高級感に欠ける」と私達が言うのと全く同じことを言っているのです。歴史は繰り返されると言うのは将にこの事かなと思ってしまいます。そのためこの本が今私達のバイブルになっているのです。
和風照明は陰翳が美しい
陰翳礼賛は光と影の中で影こそが美しい、という意味ですが、ここで翳が影という字では無いことに疑問を持つのではないかと思います。この翳は「かげり」と読みます。つまりただ暗い所ではなく暗い中にもグラデーションがあり、漆黒や薄明かりがあると谷崎は語りかけているのです。明る過ぎるとこの「かげり」が出てこないのです。
そしてこの「翳り」を出せるのが和風照明です。和風照明は単に「和室用」や「和風住宅」に合う照明器具というプロダクトデザインの分類ではなく「翳り」を出せるというカテゴリーの器具なのです。ですから洋室ばかりの外国人住宅にも数多く使われています。
外国人にも好まれる和風照明
「翳り」の中には「薄明かり」が存在します。この薄明かりこそが「わび・さび」(東山文化)の芸術として日本の室町時代や安土桃山時代に花を咲かせた世界に誇る美的感覚と言えましょう。この時代に能や茶の湯で薄明りの美学が発展し日本の照明感覚が世界の歴史に影響を与える礎になります。これに関しては別のテーマでお話ししたいと思っています。
和風照明はその意味から日本人の財産であり、もっと世界に発信すべき照明手法であると思っています。「陰翳礼賛」が昭和初期に日本人に与えた警鐘!今こそ忘れないように真摯に向き合うべきでしょう。
(次回もお楽しみに)
(文/河原武儀氏)
和風照明器具のミヤコアンドン 都行燈株式会社
Japanese lamp atelier
公式サイト https://www.miyako-andon.com/