1-3 灯りの効果【眼の順応性を活用しよう】

あかりの効果

1-3 灯りの効果

【眼の順応性を活用しよう】

  人間の眼とカメラの構造を比較してみましょう。似ているところはレンズ(水晶体)があって、絞り(虹彩)やフィルム(眼では網膜)があるところ。大変似ています。しかし全く異なるところとしてピントの合わせ方があります。カメラはレンズを前後に動かすのですが、眼は前後出来ませんのでレンズの厚みを薄くしたり厚くしたりして焦点を合わせます。このときレンズを両端から引っ張る役目をする毛様筋を使います。しかしこの毛様筋はピントと同時にカメラの絞りに当たる虹彩(こうさい)も動かすので明るさ調節もつかさどることになります。器用ですねえ!ピントと絞りを別々に動かす訳です。これは筋肉なので引っ張る時に時間が掛かります。緩める時はさほど時間が掛かりません。これが順応時間として明るさを感じる時に考慮するタイムラグとなる訳です。

毛様筋が虹彩を開けたり閉めたりしている

 

至近な例を挙げると、明るい屋外から暗い映画館に入ると空いている椅子を見つけるのに5分から10分掛かりますが、外に出ると初めは目が痛くて開けていられませんが30秒ほどで直ぐ慣れます。この明るいところから暗い所に行くと慣れるのに時間が掛かることを暗順応と呼び、逆に暗いところから明るいところに行った場合、ほぼ時間が掛からないことを明順応と呼んで照明計画では重要な人間の眼の特徴となる訳です。公共施設では例えばディズニーランドなどはアトラクションの前に少し時間をかけて暗い所に並ばせて暗順応させたり、美術館などでも作品を見る会場までに屋外との中間くらいの明るさの場所を作ったりしています。一般的なホテルでも車寄せやロビー・フロントの明るさに対して、客室前まで時間を掛けて暗くしていくという対策を取った施設がかなりあります。

 

そこで私達の生活ではこのことを利用してひと工夫必要になります。まず玄関を煌々と明るくしてしまうとリビングをどんなに明るくしても暗く感じてしまいますので、フットライトを中心に相当暗くする必要があります。またリビングに通じる廊下も暗くする必要があるでしょう。よく店舗で採用している露地行灯は屋外の暗さから明順応しないよう足元の安全性だけを考慮した上で暗くするやり方として住宅でもお勧めの方法です。

都行燈の露地行灯

 

また住宅照明で日本人が犯している失敗例として、シーリングライトなどで全体を明るくしてしまう方法です。眼は常に明るさを受けてしまっているので、次第に明るさを感じなくなり、全体が何となく暗く感じてしまう状態が起こります。その状態から暗い屋外に出ると眼がくらむ状態になり大変危険です。

明るい場所に長期間いると眼が退化するという文章を以前書きましたが、会社など一日中明るい場所で仕事をし、帰りの電車はLED照明で明るく、駅を降りたコンビニは異常に煌々としており、自動販売機と街路灯で道路も必要以上の明るさがあり、家に帰ってもなおLED照明で煌々と明るい生活を寝る直前までしているという生活で良いのでしょうか。そろそろ眼を休める空間や時間が帰宅までの経路にあっても良い時代を迎えていることを多くの人が発信しないといけないと考えます。

(次回もお楽しみに)

(文/河原武儀氏)



和風照明器具のミヤコアンドン 都行燈株式会社
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